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吉野弘「夕焼け」 [おすすめっ!!]

「夕焼け」


いつものことだが
電車は満員だった。
そして
いつものことだが
若者と娘が腰をおろし
としよりが立っていた。
うつむいていた娘が立って
としよりに席をゆずった。
そそくさととしよりがすわった。
礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。
娘はすわった。
別のとしよりが娘の前に
横あいから押されてきた。
娘はうつむいた。
しかし
また立って
席を
そのとしよりにゆずった。
としよりは次の駅で礼を言って降りた。
娘はすわった。
二度あることは と言うとおり
別のとしよりが娘の前に
押し出された。
かわいそうに
娘はうつむいて
そして今度は席を立たなかった。
次の駅も
次の駅も
下唇をキュッとかんで
からだをこわばらせて――。
ぼくは電車を降りた。
固くなってうつむいて
娘はどこまで行ったろう。
やさしい心の持ち主は
いつでもどこでも
われにもあらず受難者となる。
なぜって
やさしい心の持ち主は
他人のつらさを自分のつらさのように
感じるから。
やさしい心に責められながら
娘はどこまでゆけるだろう。
下唇をかんで
つらい気持ちで
美しい夕焼けも見ないで。


ある方のブログを拝見していて、吉野弘さんと仰る詩人のことを知る。
今年の1月15日にお亡くなりになられたそうで、有名な詩として「祝婚歌」「I was born」などがあり、国語の教科書にも掲載されたことがあるとのこと。

ブログでは「夕焼け」「虹の足」「雪の日に」「素直な疑問符」「奈々子に」を挙げていらっしゃったが、こと「夕焼け」の詩に心を鷲づかみにされたような気分になった。

ネット上ではいろいろな解釈が紹介されていたが、明らかに後半部分の

「やさしい心の持ち主はいつでもどこでもわれにあらず受難者となる」

これが作者の言いたかったことなんだろうと僕は思った。

やさしさゆえに、図々しい人からうまく利用されて、そのやさしさゆえに自分すら責めてしまう。

車内には彼女以外にも席を替わろうと思えば替われる人はたくさんいたはずだし、二度も譲ったのだから、本来なら彼女を責める人はいないはずなのに、彼女は他人からも責められているような気持ちに苛まれる。
そして、あげくの果てには自分自身をも責めてしまう。

夕焼けの美しさと彼女の心の対比がなんとも言えない。

実社会において、このようなことは多々ある。

誰かがやってくれるだろうと、他の人のために何かをやることはなく、のうのうと過ごして、いいところだけを持っていってしまう人間。

本来、責められるべき人間は彼らだと言うのに・・・。

白川南通

Leica X2 f6.3 1/125s ISO100 -1/3EV

なかなかうまく自分の感じたことを言葉にはできないけど、心のどこかにちょっと留めておきたいと思う詩でした。

というわけで、早速、ハルキ文庫から出ている吉野弘さんの詩集を注文。
ジュンク堂、紀伊國屋にも置いてなかったのでBook1stで取り寄せることにしました。
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